スリーピングバッグの進化に貢献。TRAILWISE トレイルワイズ SLIMLINE スリムライン
トレイルワイズ/Trailwiseと言えば、アウトドア愛好家のバイブルとして知られる「The New Complete Walker 」(1974年発行・邦題は「遊歩大全」)の著者、Colin fletcher コリン・フレッチャーが愛用していたブランドとして、その筋のあいだではあまりにも有名なブランド。日本でのTrailwiseの知名度はほとんどないのが残念です。
ところが何年か前、驚くべき冗談のような事件が発生。復刻商品が日本で売り出されたという珍事。当時多くのアウトドア著名人たちが愛した高いクオリティもモノづくりのブランドポリシーも継承されることなく、ただもの珍しさだけで復刻されてしまった悲しいアウトドア物語でした。復刻品の仕掛人の無能な仕事ぶりと滑稽なクオリティの復刻製品は”残念さ”を通り越してただただ笑いを誘います。
さて、Trailwiseの代表的名品のひとつがグースダウン入りのスリーピングバッグ「Slimline/スリムライン」です。テントと並んでスリーピングバッグはキャンプ生活の要。1970年代バックパッキング全盛期、北米バックパッカーたちの間では絶大な人気と高い評価を受けたスリーピングバッグです。
昨今はキャンプ場よりも温泉宿に泊まることが多くなり、すっかりスリーピングバッグの出番がなくなってしまいましたが、羽毛フトンの替わりにグースダウンのスリーピングバッグが意外と重宝することを発見。愛用の1970年代後期4シーズン・スリーピングバッグ「Slimeline」に再び活躍の場が現れ喜びもひとしおです。
デファレンシャル・カット、スラントウォール構造のダウンチューブに600フィルパワーのグースダウンを惜しげもなく詰め込んだ「Slimline」。フードの形状は1970年代初頭のオープンタイプ全盛期に、“ややクローズド”という、赤ずきんちゃんの「ずきん」を思わせるデザインを採用。ドローコードを絞れば、無理なく頭部を包み込んでくれます。
開閉のジッパーはヘビーデューティなTALON社のコイルジッパーを使用。スライダー操作を容易にするためにレザー製のタブが縫い付けてあるところは心憎いパーツチョイスです。ジッパーの取り付け位置も「左」と「右」を選択できるというありがたさ。左右ジッパーの異なるスリーピングバッグをつなげる(カップリング)ことで二人用ダブルサイズのスリーピングバッグにもなるわけです。今でこそ当たり前になったスリーピングバッグのカップリング・システムですが、当時は相当画期的だったはずです。1970年代、恋人同士のバックパッカーに絶大な支持を集めていたことでしょう。
ウルトラ警備隊のユニフォームを思わせる「V」型バッフル・ステッチのデザインはTrailwise「Slimeline」の大きな特徴です。デザインは好みの分かれるところですが。このVステッチはグースダウンの偏りを防ぐために考え出された機能的なデザインです。長年使っていますが、他社製品に比べると確かにダウンの偏りは見られません。バックパッカーの先人たちが名品と認めたスリーピングバッグだけのことはあります。
当時では珍しくTrailwiseは自社開発したナイロン100%の素材、「TENAYA」クロスを使っています。タフタより強く、軽く、撥水性に富み、シルクのように滑らかで肌触りの優しい、優れたナイロン素材です。グーズダウンのスリーピングバッグを愛用するバックパッカーが大好きな”裸寝の至福の温かさ”を満喫するのに、リップストップやタフタ素材よりもTENAYAナイロンのほうにシルクのような肌触りの良さで軍配が上がるでしょう。
スリーピングバッグの内側に目を向けると丁寧に包み縫いされていることが確認できます。細部の作りはさすがサンフランシスコ、バークレーの老舗アウトドア用品店『SKI HUT/スキーハット』のオリジナルブランドTrailwiseの歴史と経験の深さを感じないわけにはいきません。
Trailwiseがスリーピングバッグの進化に果たした功績を整理してみました。
●1952年 「バッフル」のスリーピングバッグを初めて作る。
●1956年 「カップリング・システム」(2組のスリーピングバッグをジッパー部分で結合)を初めて作る。
●1959年 「シャブロン・バッフル」「1/2オフセット・バッフルチュービング構造」と初めて作る。
1970年代の優れたスリーピングバッグ「Slimeline」も今や、わが家の寝室のフトン替わりに毎晩寄り添ってくれる愛妻のような存在ですが、いつの日かまた、満天の星空の下で過ごせることを夢見て皆さんお休みなさい。
この記事に対するコメント
それにしても、この家には一体どれだけのモノがあるんでしょうか。驚きです。
就職も決まり最後の春休みを九州旅行で過ごそうと2月10日に旅立った時に着ていたのはTENAYAのダウンジャケットでした。当時はダウンジャケットが珍しかったのか福岡天神辺りでは奇異な目で見られた憶えがあります。
いつもコメントをありがとうございます。
TENAYAを知る先人の方からの若かりし頃のエピソード、興味深く読ませていただいております。
”ダウンジャケットが珍しかった時代”というのがありましたね。確かに一般の方々には奇妙なデザインの上着にしか見えませんものね。
このSLIMLINE襟元のバッフルの豊かな事。
見るからに暖かそうです。迷いに迷って結局手が
出せませんでした。
それにしても、アメリカ人って頭が小さいんだなと
このフードを見て思ったモノです。懐かしいですね。
シルキーなTENIYAナイロンとグースダウンの相性は抜群でフカフカですね。1970年代のアウトドアギア選びは選択肢は多くないのに機能やらデザインやら価格やら比較しながら悩み楽しんだものでしたね。サイズはもちろんすべてアメリカ仕様。懐かしいですね。
7年ほど前の掲載しました記事にもかかわらず、お越しいただきまして感謝です。
古き良き時代、胸をときめかされた1970年代のアウトドアブランドの復刻がいまだ収まらない状況のようですが、ティーさん同様、当時を体験した身としましてはがっかりすることばかりですね。同じ気持ちです。
CAMP TRAIL社のダッフルバッグを大切にされているとのこと、温故知新の精神の想いを共有できる仲間が増えて嬉しく思います。