ワークブーツ入門。1980's レッドウィング社アイリッシュセッター Red Wing "Irish Setter 875"
Levisの501は左側パンツ側面の縫い目が捻じれ、正面を向いてしまうことに、これぞ501だとか、Brooks Brothersのボタンダウン生地の織り傷やHanesのTシャツは襟が伸びるのが「味」だなどと言われ、アメリカ製品の“いい加減さ”を広大な国土ゆえの“おおらかさ”に置き換え過大評価し一途に憧れた時代。アメリカ製品への憧れは痘痕もエクボのような片想いだったのかも知れません。
そんなMade in USA製品が怒涛のように押し寄せて来たなかで、「どうしても欲しいリスト」ワークブーツの部のNo.1がこのRed Wing社ワークブーツでした。1981年頃、購入店は当時憧れの製品を数多く揃えていた「西武スポーツ館」。サイズを9か8-1/2、どちらにしようか何度も履き比べる1時間は真剣そのものでした。
国産の革とは明らかに違う質の良い革と皮革の匂い、シューレースの編み方もConverse社「オールスター」と同様、悩んだものです。新品時の足入れは固めですが、履きこむほど馴染んでくる感覚は足を靴に合わせるのが当たり前の日本製の靴で味わったことのない体験です。ミンクオイルを何度も塗り、一年中履いていたあの頃、夏でも蒸れること無く梅雨の雨にも水が浸みこまないのは「ソールの減りの速さ」同様驚きでした。
2足目の購入は仕事でアメリカ滞在中の1989年、広大なオレンジの実がたわわに実る農園の間の道をベンチュラのPatagonia本店へ向かう道中、突如左側に現れたRed Wingの看板に気付き車をUターンさせたのは言うまでもありません。今となってはその場所がどこだったのかも分かりませんが、明らかに街の近郊では無く、どこまでも続くオレンジ畑の一角にその店はありました。オレンジを収穫するファーマーが多い場所にRed Wing Shopがある事はアメリカでは驚く事では無いのでしょうが、日本では考えられない光景だけに強く印象に残っています。店内は勿論Red Wingだらけ・・・・・革の匂いに満たされた空間は幸せでした。購入品は迷わず875モデル、8-1/2 EEサイズはワイズも丁度良く、申し分ない一足となりました。
安価な靴が“それなりの作り”で氾濫するなかでRed Wing同様、今もなおアメリカ国内で製造を続ける靴メーカーが残っているのは他のジャンルとは違い、上質の皮革が入手しやすい環境と質実剛健な作りが日常に溶け込んでいるアメリカならではなのでしょう。
シューレースを結ぶ手間も面倒な慌ただしく時間を浪費する日々、初代のRed Wingは2度のソール張替後出番はありませんが、他の靴とは違い皮革が傷つく事が思い出になるワークブーツとそろそろ一緒に出掛けてみたいと思います。